大家族風呂“金郷泉”をつくった理由

2020年7月17日


(1)はじめに

御所坊は特殊建造物です。増築が一切許可されません。そこで決まった部分をどう仕切るかという事になります。

1960年頃は下記の様な浴場でした。

そして1980年頃は下記のように改修されていました。

左半分が男性用浴場、中央部分が女性用浴場、そして二つの小さな家族風呂がありました。

 

団体客から個人客に特化すると方向性を決まました。基本的には冒頭に述べました様に特殊建造物なので増築は出来ない。決められたスペースをどう割り振りするかです。その当時増えつつあった女性の為のスペースをどう確保するかが問題でした。

 

ある時、兵庫県の湯村温泉に家族みんなで泊まりに行く機会がありました。

朝野屋さんは昔、混浴だったようですが、仕切りをつくられていました。子供たちは喜んで

大浴場に行くのですが、しばらくすると「ママやバアバの方に行きたい!」と言い出していました。

この仕切り、小さな子供たちは行き出来るように出来ないものか?
また家族皆で行くと、どうしても女性陣が遅く、乾杯の為に待ちくたびれてしまいました。昔の銭湯の様に仕切りの間から声を掛けられないかとも思いました。

 

又ある時、白馬から野麦峠を超えて白骨温泉の泡の湯の温泉に家族で入ったことが有ります。

牛乳の様な白濁した湯と赤い紅葉が印象的でした。

露天風呂は混浴なのですが、湯に入ってしまえば見えないのですが、女性の方から湯船に入るのには問題がありました。

その時、スロープのようにして身体を見せないでも湯船に入れるようにしたら良いのになあと思っていました。

 

余談ですが、泡の湯さんも乳頭温泉の鶴の湯さんも御所坊の様に身体のラインが見えないで湯船に浸かれるように今はなっています。たぶん御所坊の湯船を参考にされたと思います。

つまり“半混浴”という言い方をしていますが、三世代の家族やグループなどで入れる家族風呂つくろうというのがコンセプトです。

【参考旅館】

湯村温泉 朝野屋

白骨温泉 泡の湯

乳頭温泉 鶴の湯

 

(2)満員電車における男と女の関係

朝夕の通勤列車は大変混みます。電車は何名が定員なのか分からないのですが、仮に100人が定員とすると、男性ばっかり100名が乗ると窮屈だと思うそうです。そして女性もやっぱり同様だそうです。ところが男性60名、女性が60名、合計120名乗せても窮屈だという事にならないそうです。

つまり混浴のようにできれば100%のスペースを120%に使えるのではないかと考えたのです。そして御所坊の浴槽には源泉を100%注いでいるので有馬の中でも飛び切り濃い温泉で満たされます。つまり湯につかれば身体のラインは見えない。

御所坊の濁り湯だからこそ可能だと考えました。

そして友達などのグループや三世代の家族の場合、裸が見えると問題になります。

 

(3)女性が安心して異性と入浴できる事は可能か?

アイデアを色々な女性に話をして意見を聞きました。

ある一定の距離内に見知らぬ男性がいた場合。例えばプールで身体のラインが見える水着を着ていた場合と何も身につけないで身体のラインが見えない不透明な湯につかる場合、どちらが安心できるか?結果は圧倒的に水着だったのです。

身体のラインが見えるより薄い布切れ一枚の方が安心できる。そういえば赤ちゃんをお風呂に入れる時にガーゼの布を持たせたら泣かないですね。

では湯あみ着を考える・・・

それか仕切りをつくる・・・

川の露天風呂で有名な湯原温泉では湯あみ着をつくっています。

【参考旅館】

湯原温泉 湯原リゾート

 

(4)男性にとって近くて遠い距離、女性にとって安心できる距離は?

飲み助の設計士は即座に「60㎝だ!」と言いました。

飲み屋で女性が横に座る店とカウンター越しに接客する店が有ります。女性が横に座って接客するには風俗営業の許可が必要です。カウンターがあれば飲食店営業の許可で良い。それよりも女性が水商売に入る際に、カウンターのある店の方が安心できるそうです。

そのカウンターの一番狭いサイズが60㎝だそうです。

そこで60㎝の幅の仕切りを作ることにしました。

 

(5)見られたくない、見たくない事が可能か?

湯布院に亀の井別荘という宿が有ります。そこの11号室だったと思いますが、部屋に書院のようなスペースがあり、家族で泊っている時に、女性が押入れから服を出し、さりげなく書院の陰で着替えが出来るようになっています。これも友達夫婦などと一緒に良いなあと思ったことが有ります。京都の俵屋の一階の右奥の部屋も押入れが部屋側と脱衣場側と二方向から服を出せるようになっていて、同じような効果が有ります。

その様に“隠す”“見る”という事でなく、さりげなく見せない、見ないようにできないかという事が重要だと思ったのです。そこで浴槽の形ができてから、ビール箱を持ってきて、積んで色々な角度から検討したのです。

 

【参考旅館】

湯布院温泉 亀の井別荘

京都    俵屋旅館

 

(6)半混浴、半露天風呂

大家族風呂をどのような言い方をしようかと考えました。結局良くも悪くも分かり易いのと、それって何?って興味の持ってもらう言い方として、半混浴、半露天風呂という言い方にしました。そして先生に“金郷泉”という名前を付けてもらいました。金泉の里だから“金郷”読みは“こんごう”なので男女の“混合”もかけています。

出来上がった時、親父と大騒動になりました。そして1ヶ月様子を見るという事で、試験期間を置いて始めたのです。結果によっては湯あみ着を導入しようかとも考えましたが、幸いそのような事にはなりませんでした。

これにより御所坊は団体客を取れない様になり、良識ある紳士淑女の方々にターゲットを絞った宿に方向性を定めました。